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「県民性論議」にフェイクニュースの危険性

日本人を47タイプに分けるのは難しい 真実の名古屋論②

日本人を47タイプに分類などできる訳がない

 この程度の県民性なるものは、確かにある。しかし、一道一都二府四十三県すべてにそれぞれ特徴的な県民性なるものが観察できるだろうか。どうもそうは思えない。むしろ反対に、日本人を47のタイプに明確に分類できるとは考えにくい。

 神奈川県の農村部出身者と静岡県の農村部出身者を較べてみたら、同じく農村部出身者でありながら、性格や行動様式に顕著な違いがあるのだろうか。神奈川県横浜市の出身者と神奈川県足柄上郡の出身者は、同じ神奈川県人だから、よく似た性格や行動様式を持っているのだろうか。そんなことはとても信じがたい。むしろ、県は違っても、農村部出身者同士で、また、都市部出身者同士で、性格や行動様式は似てくるだろう。

 さらに、ここ50年ほどの日本社会の変化は激変と言えるほど大きいことも考慮しなければならない。とりわけ1960年代の高度成長期以後、テレビや交通の発達によって、日本全体が均質化した。

 幼時からテレビによって標準語を耳に注ぎ込まれ、方言は急速に消えつつある。物流網の拡大で日本中一様な食材が普及した。そんな現代日本で県民性に大きな意味があるようには思えない。むしろ階級差、階層差による性格・行動様式の違い、社会学で言う「ハビトゥス」への注目の方が重要だろう。ただし、これは本書で扱うテーマではない。

 それでも、その地方特有の文化と結びついた県民性はあるような気がするし、納得できるように思われている。しかし、その地方文化や県民性なるものもよく検討してみないと、本当かどうか分からない。

 そもそも、人間の性格というものは、身長や体重、収入などと違って数値化しにくい。職業種や住居種なら国勢調査によってほぼ客観的な統計結果も出せるのだが、性格についてはアンケート調査を行っても主観的な答えしか返ってこない。どうしても印象論や願望論などあいまいものになりがちである。県民の性格、県民性もそうだろう。

 先に雪国の人は我慢強い性格になりがちだと書いた。これは当たっているかもしれない。東京圏の銭湯の経営者のほとんどは、新潟県を中心とする北陸地方出身者およびその子孫である。明治期に人口移動が活発になり、地方から多くの人が上京して新しい仕事に就いた。当然、仕事には向き不向きがある。銭湯は朝早くから夜遅くまで働かなければならないし、家族経営だから協調性が求められる。そうであれば、我慢強い性格の雪国の人が向いていると言えよう。

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呉 智英

ご ちえい

評論家。昭和21年(1946年)、名古屋市生まれ。早稲田大学法学部卒業。評論の対象は、社会、文化、言葉、マンガなど。日本マンガ学会発足時から十四年間理事を務めた(そのうち会長を四期)。東京理科大学、愛知県立大学などで非常勤講師を務めた。著作に『危険な思想家』『現代マンガの全体像』『現代人の論語』『吉本隆明という共同幻想』『つぎはぎ仏教入門』ほか。名古屋市在住。


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